声区(せいく)

声区(せいく)

=ヴォーカルレジスター。声の種類を論じる時に用いられる用語。喉頭筋群の動きによって2種に分けられます。

 

●胸声区(きょうせいく)/ Chest Register

いわゆる地声、とそのおおまかな音域です。音域は音域を決める教師のモラルによって変動します。甲状披裂筋などの活動が、輪状甲状筋に対して優勢に働いている時の声です。

 

●頭声区(とうせいく)/ Head Register

裏声と、そのおおまかな音域です。音域は音域を決める教師のモラルによって変動します。輪状甲状筋の活動が、地声系の筋肉に対して優勢に働いている時の声です。

 

●ブレイク位置の変動

ブレイク位置によって、それぞれ声区の音域が確定するわけですが、ブレイク位置は、その教師がどの音楽ジャンルのモラルに染まっているかで変動します。生理的事実は1つですが、21世紀の今に至るまで、コンセンサスは取れていません。

例えばハリウッドメソッドにおいては、女性のファーストブリッジ(第一パッサージョ、ブレイク)はA4周辺に存在するとしていますが、西洋声楽畑のコーネリウスリードなどは男女変わらず、第一パッサージオはE4に存在するとしています。これはハリウッドメソッドにおける男性のファーストブリッジです。

西洋声楽においては女性の胸声区の持ち上げは忌み嫌われます。「胸っぽい声」などとして批判の対象になります。ゆえ、ブレイク位置がE4に置かれていることがほとんどです。その一方で、ポピュラーの世界では(特にロック)、女性でもC5、ひょっとするとG5あたりまでベルトする可能性すらあります。むしろ「胸っぽいほど優れている」と言えるでしょう。

こうした、「モラルの違い、美的価値感の違いが常に生理の真実を歪めている」ということを気づかせてくれる貴重な議論です。

 

●中声区が存在するか否か

上記の2声区の中間、「中声区」つまり「3声区」を認めるかどうかで、大きな議論が存在しますが、ダグラスタンリーなどは、アカデミックな見地から、「人間の声には2種類しかない」としています。そもそも声区とは、「そのための筋が存在するか」という点で語られます。つまり、「声の原材料」のようなもので、ミックスボイスやミドルボイスの存在は、あくまで地声裏声の結果に過ぎません。つまり声区として認めるべきではありません。

もしも中声区の存在を認めるのであれば、もはや声区は無限に存在することになります。地声裏声の配合バランスが変われば、音色の数は無限に増えるだからです。地声裏声の配合によって生まれる声を「声色」ではなく「声区」と認めるならば、声区という言葉の存在意義が消滅します。声区が声色と同義になるからです。

 

●声区と共鳴をイコールで結びつけるかどうか

声区と共鳴腔の関係は無関係ではありませんが、イコールでは結びつけられません。本来、声区と共鳴現象は切り離して考えられるものです。声区論争において長らく誤認されていたのは、「胸声区は胸に響く声であり、頭声区とは頭に響く声」というアイデアです。そもそも、胸や頭蓋には共鳴腔自体、存在しません。

このアイデアから脱することができない発声教師たちが多く、それは日本でも同様です。高橋昭五氏は、共鳴との関係や、声区論争に関しての当時の声楽界における混乱状況をよく述べています。加えて、高橋昭五氏は「声区と共鳴は無関係とする」という主旨の論文を発表し、一大センセーションを巻き起こしました。それほどに声区概念が誤解されていたからです。

 

参考文献

声楽用語辞典 / コーネリウス・リード

それは裏声だった / 高橋昭五

singing for the stars / Seth Riggs

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