米国解剖研修日記 二日目
岩崎です。
米国にて、人対解剖研修です。二日目。以下、メモに過ぎません。なるべく感じたことをそのまま書いています。
●二日目、WSから。
ミーティング、WSから。筋膜とは何かという学びから始まる。
いくつか面白い話が飛び出すがつかみきれず、こりゃ学習不足で、ところん学ぶ必要がある。筋膜とは筋群を包み、体全体をひとまとめにもするものがある。水を含んだスポンジの水圧を調整する、とも言っていた。
丹田、お腹の下あたりがその中心部分に成ると、ぽろっとThomが言ったがそれが気になるところ。
最後にやったストレッチが良かった。パーソナルトレナー、ピラティスインストラクター、理学療法士、柔道整復師が集まる会場で、皆そのワークに喜んでいたように思う。
体調不良になった方が一人いた。心配だ。辛いだろう。
●献体について 変化
昨日比べ、もう色が変しょくしていたように思う。
また、質感が全然違う。冷凍保存から、溶けてきたわけだ。
表皮はより表皮らしくなり、深筋膜がむき出しに成っている箇所は、もうもちもちの状態で、いわゆる「肉」という感じ。
つまりより、人間を感じた。これを切れるのか、とまた昨日と同じ不安がよぎった。
●輪状甲状筋について
ところで、表皮の上から喉を触診して、
「これが輪状甲状筋です」と割り当てられるという人を聞いたことがある。
表皮を剥がした今、それができるか試してみたが、
ちょっとこれは不可能だ。
広頚筋、胸鎖乳突筋、胸骨甲状筋、胸骨舌骨筋がいて、その下に輪状甲状筋が入るわけで、
上層の筋群をスライドさせれば可能か、とも思ったが、それも不可能に感じた。というか、不可能だ。
できると言うなら、証拠を示してほしいのだが、証拠を示しようがない。だから信じるしかないのか、なんだそれ、と思う。
加えていえば、筋電図実験も一体どうやって輪状甲状筋を割り当てたのかを知りたい。
宮野、平原の論文も、そこが抜けていて、何とも。
最近の輪状甲状筋ブームも、みんな騙されてるだけだったらどうしようと心配になる。
人類が壮大な勘違いをしていて、神様が笑っていたらどうしよう。
それほど喉の筋群は細かく複雑だ。
私が担当している献体は極めて痩せていて、脂肪がない(脂肪はちなみに、真っ黄色だ。太った体型の献体は、解剖すると、真っ黄色と、血の色で、マクドナルドカラーに染まる。)。故、筋群がかなりクリアに見える。
それでも喉頭筋群は難しい。いち発声教師の自分してみれば、胸鎖乳突筋、肩甲舌骨筋、甲状軟骨、輪状軟骨ぐらいしかまだ判別ができない。
明日以降、権威ある解剖学者たちの指導のもと、喉頭解剖を進める。緊張してきた。
それが全くもって、本当に全くもってメインの目的ではないが、輪状甲状筋ももちろん、割りあてる。軟骨同士の可動域も確認しよう。
●筋膜のライン DeepFrontLine
表皮が外れた献体は、足首を動かすと、首が動く。
Thomは足先から胸鎖乳突筋に伝わる筋膜のラインをSuperFrontLineと呼んだが、
もう一人の解剖学者Lauriに、
「Front lineがそうなら、つまり、足の動きが、喉、つまり声に関わる筋群に影響を与えると考えてよいか」
と聞いた。
「Yes」だった。
これでいろんなことが説明がつく。歩いて歌いなさい、とはそういう意味で言ってるんだよ、生徒たちよ。
もう一点、彼女が腹腔と肺の関係について話していた。
「腹腔は水が入った袋で、体積は変わらず、肺は体積がかわる。肺によって、腹腔がコントロールされる。呼気をすれば、吸気がついてくる。」
このへん、フースラー的でもあるし、解剖学者にしてみたら当たり前だろう。
そのあとにもう一つ、
「腹部の筋群によって、呼吸はどの程度コントロールできるのか?」
それに対しては、
「一般人には無い。ヨガの熟練した、訓練した人間ならあるかもね」。
Lauriは私が「お腹で歌え」信奉者と思っただろうか?真逆なのだが。
口調が若干歯切れが悪く、解剖学的には否定したいところか?と疑った。
●Thomの言葉から
「神様は大事な場所を、外部から守るように作っている。1脳 2心臓 3子宮 4腎臓 だ。4は、何が自分で、何が自分にならないか、を教えてくれる。体に受け付けないものを弾くのは4だ。ニンニクの匂いを体から追い出させるのも、4だ」
「前面、と背面で、筋膜の様子が違うだろう。偏って使い方をしていると、筋膜の長さが変わる。そして筋膜は修復しない。つまり、いくら筋肉を蘇らせても、筋膜は戻らない。数年もやれば偏るものだよ。」
後者は、PTの山本先生と、音楽家にとっては大事件だ、と話した。
「いい姿勢で歌え」という指導者は解剖学的に、「体の自由を奪っている」ことになる。
本当にとんでもないことを今、メモでここに書いていると思う。
●外腹斜筋、広背筋
外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋、腹横筋、の関係性が勉強と違っていた。混乱した。
いずれにせよ、各筋群は、本当に「薄かった」。個人差はもちろんあったが、他の献体に、
指を突っ込んで、外腹斜筋、内腹斜筋の間に指を滑らせても、薄いな、という印象。
これで「声を支える」と言っている指導者は一体何のつもりだろうか、と少し笑った。
また、外腹斜筋などは背中まで続く。これも忘れてはいけないだろう。
ついでに、広背筋。パンチの源である広背筋。
これも、驚くほど、薄かった。しゃぶしゃぶ用の肉か、と思うほど。個人差あれど、やはり薄かった。
●におい / 体力
後半からにおいがきつくなってきた。
まさに「肉屋」状態。
マスクにエッセンシャルオイルを強めに塗っておこうと思う。
一日、6時間に及ぶ、解剖だ。たちっぱなので体力勝負でもある。
今日は早く寝たい。これから精神的にもまだきつくなるんじゃないかという予感もした。
ちなみに、表皮を剥ぐ作業だが、「指」の皮膚を取り除くのが精神的にストレスを感じた。
昨日などは、寝る前に、目を閉じたら、皮膚を削いでいる自分の姿が浮かんできた。
しかしながら、つくづく、とんでもない勉強をしているな、と思う。本当に、すごい。
頑張れ発声教師よ。日本に持って帰ろう。
写真、昨日と同じだが、疲れのため、今日はもうここで限界。おやすみ。