米国解剖研修日記 四日目

米国解剖研修日記   四日目

岩崎です。

米国にて、人対解剖研修です。四日目。以下、メモに過ぎません。なるべく感じたことをそのまま書いています。


●四日目、ミーティングから、ゲスト、ジョシュ。

トレーナーであり、自身が大怪我を繰り返したジョシュがゲストで来てくれた。

筋力をただひたすらあげるだけのトレーニングではなく、「神経支配を再生するためのトレーニング」を幾つか披露してくれる。

実際に何人かがそのエクササイズを試すと、すぐに柔軟性が上がり、「おおっ」と声が上がる。

神経支配に訴えかけるには、

1まずはゆっくり パフォーマンサーには早いものも

2そして回数も疲れない程度に少なく

3頻度は多く

だった。この辺、自分のメソードと折り合いがついた。やはり発声学は神経支配によるコントロールがものを言う。


●直訴 / 世界的解剖学者Garcia Todd

私たちのグループは、音楽家専門の理学療法士、歯科医師、ボイストレーナー(私)。

他のグループはパーソナルトレーナーやピラティスインストラクターが多い。そんな中だから、ちょっと異彩を放っている。

「喉、口周り」への関心や知識が他のグループに対して異常だからだ。

事前に、通訳のkaoriさんにも直訴をしていた。「口蓋筋群、咽頭収縮筋が見たい」と。

ラボに集まり、これから解剖だ、という時、Todd Garciaが、

「そこのグループは喉に関心があるようだから、ちょっと一緒にやってみよう」と言ってくれた。

丸4、5時間の壮絶な解剖プロジェクトスタートだ。





●舌、喉頭、口蓋、咽頭、すべて見たい。

歯科医師の山下先生のリクエストはとにかく舌(ぜつ)。

舌と舌骨筋群の関係が見たいようだ。

私のリクエストは内、外喉頭筋、それから、厄介なのが、口蓋筋群。

特に、「口蓋帆挙筋(こうがいはんきょきん)」。興味のある方は調べると良い。厄介な場所にある。

Toddがそれをすべて叶えるプランを提案する。

が、詳しく解剖手順はあまりに強烈だったため、書かない。

通訳たちも悲鳴をあげていた。

顔面に3本も解剖器具が突き刺さるような内容だった、ということだけ記しておく。


●ありえない角度から、ありとあらゆる筋を触り、見た。/ 舌骨筋群

というわけで、見れた。

普段は絶対に見れない角度から、見れた、長年ずっと見たいと思っていた喉の仕組みを。

3Dアプリなど、何の役にも立っていなかったと実感した。あんなものを頼りに生徒に話していた自分を恥ずかしく思うほどだ。

顎二腹筋の筋腹が素晴らしかった。他の筋群に対して、かなり目立つ。

茎突舌骨筋はやはり細い。が、メスではなかなか切れない。強度がかなりある。

上記、舌骨筋群がかなり強力に思われたことを記しておく。

また、茎状突起が、本当にトゲのようだった。面白かった。


●鼻腔、腹鼻腔

鼻腔は思ったより、太さを感じた。ボールペン一本は入る広さ。

でも、その程度。

むしろ腹鼻腔の体積に驚く。親指一個分の体積はあっただろうか。ここに声を響かせるのを期待する人間がいるのは、まあわかる。





●口蓋垂、口蓋帆挙筋

口蓋帆挙筋は、軟口蓋を緊張、持ち上げ得る筋肉だが、

これには驚いた。

想像よりもずっと筋腹があった。軟口蓋派閥にはいいニュースだろう。

ちなみに英語訳を知っているだろうか?

Levator deli palatine muscle。リベイター デリ パラティーニ マッスル、だ。

通訳の方もマニアックすぎて知らなかったようだった。


●輪状甲状筋、輪状甲状関節の可動域、下咽頭収縮筋(輪状咽頭部)

これは、ボイトレオタクなんかは喜ぶだろう。

輪状甲状筋は、筋腹が、想像よりはるかにしっかりしていた。嘘だろ!と声をあげてしまった。

前日の肩甲舌骨筋の落胆ぶりがあったから、期待していなかったのだが。

後で書くが、声帯筋など、もはや肉眼で確認できるレベルではなかった。それに比べると、輪状甲状筋はよほど力を持ちうる。

ちなみに輪状軟骨、甲状軟骨の関節の可動域も確認した。数ミリの動きを感じることができる。

フースラーが言う、「輪状咽頭筋」には驚いた。

これも本当に筋腹が大きい。「うわあ!」と声をあげた!ゴエルットラーが「強力だ」と書いたわけだが、これだけの筋腹があれば、喉頭への影響はかなりあると考えてもおかしくない。


●声帯、披裂軟骨、後輪状披裂筋、喉頭蓋

これら全て、自分が思った通りの形をしていた。

後輪状披裂筋みたいなマイナーな筋肉も想像よりはるかに筋腹がはっきりしている。

が、本当に、本当に信じられないほど、小さい。

献体の声帯は1センチ程度だった。それに対してあらゆる筋群、軟骨が周りを囲む。

だから、小さい。

「これはミニチュアの声帯模型か?」と思うほどに、小さい。

あれで音量を出すのか?と思うと、「過保護」になる、医師たちの気持ちも、わからなくはない。

この辺、目で確認できた時、あまりの興奮状態で、足がすくんだ。

なぜか?上記に書いた、発声に関わる器官すべてが未だに一つも切りはなされて独立していないのだから。つまり、位置関係が正確にわかる状態で、今、まだラボに眠っている。

その辺、まさにToddの芸術的解剖、ということになる。


●その他

・家族に心配されたが、元気である。今日も終えてから、少しお酒をいただいた。がしかし、ボイストレーニング界への不満は、募るばかりだ。

・「見てもないのに教える」というのは、見た今だからこそ言えるが、「ありえない」と思う。それほどに想像とは違う世界がここにある。呼吸方を教えるあなた、「縦隔」が何かを知っていますか?

・声帯などを見てのあまりの騒ぎに、少しThomに怒られた。

・クレイジーか?といろんな人に言われるが、前日の日記の通り、クレイジーなのは今の発声現場だ。間違ったことが平気で、歌の苦手な人に伝えられ、ますます歌が下手になっていく。そして、小銭稼ぎ目的の歌手くずれが儲かる。うんざりだ、本当に。詐欺じゃないか、そんなの。クレイジーな世の中を変えるために、誰かが体を張っているんだ、と思ってもらえたら、嬉しい。

・明日は最終日。声帯に、チューブか何かで、息を吹きかける実験をしたい。

・写真はラボ前のアパート。
S__2359299

 

スポンサーリンク